AACR2016 Part 4 決断の第一エイド
前回のあらすじ
ラーメン屋の裏切り、小熊山でのメカトラ、焼き鳥屋の誘惑、靴下ロスト事件、数々の障害を乗り越え、いよいよ始まったアルプスあづみのセンチュリーライド2016。
晴れ渡る空の下、一行は最初のエイド「あづみの公園穂高エイド」を目指してペダルを回す。
この後に待ち受ける悲劇を知らぬまま……。
松本梓水苑~あづみの公園穂高エイド(25.6km)
スタートから7kmほどは、見晴らしの良い田園区間が続きます。平坦路ではありますが、見晴らしが良いせいか、かなり強い向かい風が吹いていました。
とり
「やべぇ、全然心拍があがらねぇ、身体がまだ寝てる(笑)」
私は極端な低血圧で、朝起きてから数時間は身体がろくに動きません。睡眠時間の短さも相まって、ペダルを踏む足にまったく力が入りません。
序盤で無理をしても仕方がないので、前を走るうしと貨車を風よけにし、軽いギアでケイデンスを上げ、身体を温めていきます。
そして強風の田園区間を切り抜けると、いよいよ登坂開始です。
斜度4%前後のたいしたことの無い登りですが、もともと登りが苦手なうえに、心拍がまったく上がらない状態では、この坂ですら激坂に感じます。
コース160kmで獲得標高1450m、世間的には「平坦基調」と言われることの多いAACRですが、細かなアップダウンが多く、私にとっては十分な山岳ステージ。後半の坂に備え、常に足を残すことを考えて走らなくてはいけません。
とり
「みんな、ここは俺に任せて先にいけ!」
早々について行くことを諦め、足に疲労が溜まらないペースでゆるゆると登っていき、後続に次々と抜けれつつ、なんとか山頂に到達。足を止めて待っていてくれた三人と合流し、ここからは登って来た以上の高低差を一気に下ります。
とり
「ひゃっはー! 下り気持ち良いー!」
下りになった途端に元気になるのは貧脚の証。
下りの多い今日のコースに備え、タイヤの空気圧はいつもより低め。重い車体も、下りでは重心を下げて安定性を高めてくれるので、下りでの安定性は抜群です。
先行するうしに追いつき、ふと、アームミラーを見ると、続いて下っていたKindleと貨車の姿がありません。
とり
(調子に乗って飛ばしすぎたか……?
まぁ下り切ったらペース落として待てば良いか)
大阪ではなかなか体験できない5km近い下り坂にテンションの上がっていた私は、深く考えることなく、そのまま下り続けました。
そして。
うし
「とりさん、後続が来ない」
下りを終え、平坦に入ってしばらく、かなり低速で走っていたのですが、後続の二人が追いついて来る様子がありません。
とり
「まさか、何かあったのか……?」
路肩に自転車を止め、暫く待っても、やはり二人は来ません。
これは本当に何かあったに違いないと、電話連絡を試みます。
うし
(プルルルル…プ)「もしもし、え……貨車が落車!?」
とり
「!?」
まさかの落車。
後で聞いた話によると、下りコーナーで浮いていた砂を踏んでスリップし、前を走っていたKindleが気づいて救護に当たっていたとのこと。集団で走っていたなか、巻き込みも巻き込まれも無かったのが不幸中の幸いです。
頭は打っておらず、見たところ重症箇所は無いことを確認し、まずは一安心。
とはいえ、打ち身で肩が上がらず自走が困難なため、回収車を待つとのことで、残念ながらDNF(Did Not Finish)が確定です。
ひとまずの無事が確認できたので、鳥と牛の鳥獣コンビは先行して第一エイドを目指し、回収まで付き添いをするKindleを待ち、合流することにしました。
うし
「まさか第一エイドまでに脱落者が出るとは……」
とり
「これはあれだな、エイド区間ごとに一人づつ『後は頼んだ…』って脱落していくパターンだな」
内心の心配をごまかすために軽口など叩きつつ、ゆるゆると走っていると、コーナーを曲がったところで一気に視界が開けました。
遠く雪をまとったアルプスの山並み。
雄大で美しい景色に、一瞬で貨車のことを忘れました。この光景を貨車にも見せたかったと、目頭が熱くなりました。
あちこちで、参加者が足を止め、写真撮影をしているので、我々も習うことにします。
素晴らしい景色だというのに、なんという酷い絵面でしょう。とりの自転車を蹴り倒し、満面の笑顔です。さすが畜生です。
で。
あづみの公園穂高エイド AM 6:30
スタートから25.6km地点。ここまでで、全行程のおよそ1/7です。
予想外のトラブルで、予定より時間がかかっていますが、後続を考えてゆるゆると走っていたこともあり、体力的にはあまり消耗した気がしません。
とはいえ、ここでしっかり補給を行っておかないと後半に響くことは、過去のロングライドで学習済みです。
景色のすばらしさと並んで、エイドの美味しさでも定評のあるAACR。どんな美食が出迎えてくれるのか。
期待で胸膨らむ第一エイドの補給食はこちら。
ジャム塗り放題コッペパン。
うん、普通。
まぁ、朝だしね。
走りだしてすぐだし、ここでがっつりしたもの出されても困るしね。
いたって普通のコッペパンではありますが、環境効果が最大の調味料になるので、美味しくいただけます。これで暖かいコーヒーがあれば言うことなしです。
ジャムパンを美味しくいただいた後、Kindleが追いついて来るのを待っていたところ、Skypeにメッセージが届きました。
『回収車到着。積み込み中』
すでにこちらに向かっていると思っていたのですが、思ったよりも回収に時間がかかっていたようです。これからすぐに追走に入ったとしても、第一エイドへの到着は20分以上先になるでしょう。
この時点で、我々は30分以上を待機時間で消費しており、Kindleを待ってから再スタートをすると、S組スタート分の貯金である1時間は完全になくなってしまいます。
並のローディであれば、それでも十分に完走できる時間はあるのですが、坂道になると余裕で10km/hを切る鳥足の私です。
このままでは時間内に完走できないかもしれない……!
その時、とりに電流走る。
とり
「うし」
うし
「ん?
とり
「後は頼んだ…」
うし
「え?」
とり
「俺は、先に進む!」
うし
「な、なんだってー!」
次回予告!!
完走の為、非情な決断をくだしたとり。友の屍を越え、走れとり!
次回、週刊とりらいど「さらば友よ」
俺はお前たちの犠牲をけして無駄にはしない!
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